Planet Journal 惑星日記 山崎美弥子|vol.6 ジングルベル
「1000年後の未来の風景」を描き続けるアーティスト山崎美弥子がハワイの小さな離島から送るフォトエッセイ。
この島では終わりもなく夏が続いてる。一方、わたしの故郷には、あきらかなる春夏秋冬による現象世界の変化がある。夏はいつも胸を焦がすほどに、待ち遠しくまぶしいものであり、過ぎ去ってゆくことを切なく惜しむセンチメンタルな心情を育む。そして、その短い季節は、いつの時代も誰しもをドラマチックなシーンの主人公にさせてきた。
船上生活を経て、この島にわたしたちが上陸した頃、島にはいつでも輝く太陽の視線を感じられる、パラダイスみたいな日々があるけれど、やがて来る季節を待ちわびたり、折々の葉の色に、過ぎ去る日々への哀しみを味わうことはもうないと諦めたものだった。一見、終わらない夏が続く、メロウで平坦な時が流れるこの島で、四季の変化に気づかせてくれるものは、カー・ラジオから流れるシーズナルなメロディくらいだった。たとえばそれは、ジングルベル…。
ある頃から、数千年前にこの惑星に訪れ、愛を伝えたといわれる彼のことを信じない人たちに配慮して、「クリスマス」という言葉を使わないようにするという風潮が高まった。「ホリデー」という言葉で代用するのが適切であると。何が適切であるかは、定義する人によって異なるもの。この惑星には、さまざまな文化を持つ美しい人々の暮らしぶりや、各々の「ありかた」が在る。それは力に流され、消されることなく、わたしたちが守りたいもの。
その日は、島ではオハナ(家族と家族同様の友人)と過ごす特別な日。遠い街で暮らしていても、この日のために波を越えて帰って来る。信じるものが、たとえ異なっても、皆、ひとつに集える。誰かの誕生日だといういわれを口実に。思い合う人々が一緒に時を過ごすためには、どんなことを口実にしても許されるだろう。そんな口実だったら、たくさんたくさん見つけたい。家のまわりをピカピカの電飾で飾りつけたら、とびきりのご馳走のテーブル支度。
パーラー(リビングルーム)の隅に置かれたもみの木に、十二ヶ月が巡るたびに少しづつ揃えた、星、家、鳥、木の実やお菓子の形をしたオーナメントをぶらさげる。ひとつひとつの思い出がよみがえる。そしてテーブルには、人数より一席多く用意する。その日に迎えてくれる人がいない誰かを、いつでも招き入れることができるように…。幸いにも、そんな寂しい人がいない時には、空席のまま残される。なぜなら、空っぽの、だけれどぬくもりに満ちたその席には、この惑星をとうに去った目には見えない愛する人がきっと静かに座っているから。テーブルに集うひとりひとりに微笑みかけながら。
幻の雪と一緒にジングルベルが聞こえてくる。常夏の真っ青な太陽を反射した水平線のずっとずっと向こうから。
Photos&Text:YAMAZAKI MIYAKO
PROFILE
Instagram:@miyakoyamazaki