Planet Journal 惑星日記 山崎美弥子|vol.22 滑走路の覚書
「1000年後の未来の風景」を描き続けるアーティスト山崎美弥子がハワイの小さな離島から送るフォトエッセイ。

…まだ、金曜日という日が、目覚めたばかりの雲の上で。角をまあるく削られた、四角い窓枠が切り取る、真っ白な空…。でも、時々、白と白のはざまから、まばゆいばかりの真っ青が、こちらをチラリチラリと、いたずらっ子みたいに覗き見している。わたしたちの背後に陣取った、のぼったばかりのお日様は、機体のシルエットを、まるでおもちゃか、影絵のように、白い雲のスクリーンに映し出す。そして、わたしたちに寄り添うように、その機体の影絵は並行し、実際の機体と同じ速さで飛行する。時には、輝く白と青のつぎはぎの、空模様のその上に、大いなる円を描いたレインボウが出現することさえもある。特に、狐の嫁入りの日だったら、100パーセントと言っても大袈裟にはならないくらい、空の上のわたしたちは、果てしない夢を叶えてくれるかのような、魅惑のレインボウに出会うことができる。それはなんて素敵なこと。

島の小さなエアポートからほど近い、虹多きエリアに住まうアンティ・パット。彼女は、古いものや、手作りされたものの美しさを、深くやさしく慈しむ心を持ってる粋な人。わたしが彼女に出会ったのは、娘たちがまだ、幼い少女の頃だった。この島には、ショッピングモールもなければ、大都市で暮らす誰もが知ってる名前がついたチェーンの店だって、ただの一軒だってありはしない。だから、何か必要なものがあるときは、週末だけのマーケットや、ガレージセールに、足繁く通い、探すほか何もない。目利きであるアンティ・パットは、その抜群のセンスで、掘り出し物ハンティングをする人でもあるけれど、そうして集めた宝物を、同じマーケットで売り出す人にも、ときになる。だけれど彼女は、商売上手では、決してない。
「この帽子、あんたにあげるわ。もし、好きなんだったら」
島の文化を知らなかった頃のわたしが、そうアンティに渡され持ち帰った、古ぼけた麦わら帽みたいなものが、数年後、それは高価な、ヴィンテージ・ラウハラ・ハットだったことが判明したなんてことがあるほど。

そう、そんなアンティが生まれ育ったこの島には、太平洋の真ん中に浮かぶ島々の、その中でも、最も利用者が少ないちっぽけなエアポートがある。滑走路近くには、ひとつの灯台がただずんでいる。夜には光を灯してくれる砂色背高のっぽ。灯台は、離陸するわたしたちを最後の最後まで、見送り続けてくれる守り神のよう。このエアポートに乗り入れるのは、十人乗りセスナ機のみだ。席の予約をするときに、荷物のサイズや重さのみならず、自らの体重を伝えなければならない。それは、シートが左右ひとつづつ並んでいる機内で、機体が傾いたりしないよう、バランス良く、乗客の席順を決めるためである。わずか数段のタラップを上ったら、狭いハッチから、身をかがめて搭乗する。
お日様と反対側に座ることができたなら、あなたはその日の幸運を手に入れたことになる。なぜなら、そのありふれた席は、あの、影絵シアターを鑑賞できる、とびっきりな、ヴイ・アイ・ピー・シートに化ける可能性があるのだから。もののハーフアワー(30分)で、隣の島にランディング。タラップを降りる時には、滑走路の不適な風に攫われないよう、しっかりその手で、頭上に乗っけた宝物、アンティのラウハラ・ハットをその手でおさえて。

Photos&Text:YAMAZAKI MIYAKO
PROFILE
山崎美弥子|Miyako Yamazaki
アーティスト。東京都生まれ。多摩美術大学絵画科卒業後、東京を拠点に国内外で作品を発表。2004年から太平洋で船上生活を始め、現在は人口わずか7000人のハワイの離島で1000年後の未来の風景をカンバスに描き続けている。著書に『モロカイ島の日々』(リトルモア)、『ゴールドはパープルを愛してる』(赤々舎)などがある。
Instagram:@miyakoyamazaki




























