Planet Journal 惑星日記 山崎美弥子|vol.18 終わらない歌
「1000年後の未来の風景」を描き続けるアーティスト山崎美弥子がハワイの小さな離島から送るフォトエッセイ。
常夏の島の空の青から、雪の白のかけらたちが堕ちて来たなら、きっとこの上なく幻想的で、深くこころに刻まれる、聖なる風景となることだろう。でも、常夏の雪なんてあり得ない。しかし、ある島の、うら高い山のてっぺんは例外だ。そこには雪の女神が棲みついているから。彼女の名はポリアフという。
無い物ねだりという病は、この惑星の何処で暮らせど、消滅することはないのかもしれない。たとえば、冬の来ない島で生まれた子どもたちの場合、凍るように青ざめた朝、ニット帽で頭をまあるく包み込み、内側にふわふわのフェイクファーが仕込まれている膝まで隠れるブーツを履いて、両手に吹きかけた息が、霧のように白く膨らむのを見つめるシチュエーションに憧れる。何故ってそれが、彼ら彼女らの日常においては、あり得ない光景だから。この憧れは、無い物ねだり病のわかりやすい症状だ。でも、この病は憎めない。何故ってそれは、誰もに、夢見るよろこびを与えてくれる病だから。

十二番目…、最後の四週間が始まって、気づけば、あっという間に半ばも過ぎた。運転中のラジオ・ステーションからはあの歌が聞こえる。耳触りの良いメロディ、抑えようもなく胸が高鳴るのは、その歌に付随する、しあわせなホリデーの記憶がプレイバックされるから。惑星の姿は同じ面影。でも、ビリジアンに染まる夕日が、水平線の向こう側へと、隠れ行こうとするスピードと、夜をわたしたちの傍らに、手繰り寄せるその速度は、日に日に早まる。決して変わらないと信じられている常夏の空の色も、真にいつも変化している。
昨晩、小さな町でパレードがあった。ホリデームードを演出したバラエティに富んだ数々のフロート(山車)。物語のヒーローを模したもの、ムーディに楽器を奏でるもの、パニオロ(カウボーイ)のスタイルを模したもの。フラを踊るもの、あたたかなメッセージを伝えるもの…。黒く綺麗に塗りつぶされた夜のストリートの空中に、赤、青、グリーンにイエローとオレンジ、色とりどりのネオンがきらめく。フロートたちは思い思い、自慢話に花咲かせるかのように、シーズンの一夜を彩っていた。

わたしは、花の絵を描いた。カンバスの上の花たちは惑星のように、それは目には見えない速度で、ゆったりと自転し始めた。花たちは誰かに見つめられるために、このかりそめの世界に、束の間と知りながら、生まれ来るのかもしれない。見つめられることに戸惑いながらも、その実、見つめられることを愛している。何故って、見つめられることは、愛されることそのものだから。そして、見つめることは、愛すること。惑星のような花たちは、緑色の銀河に抱かれ、守られるかのように、ふわりふわりと浮かんでいた。
…そう、山のてっぺんに棲まう女神は、可憐な花たちや、あらゆる事象に、そのこころを映し出しているのかもしれない。分け隔てなく白く包み込み、すべてを清める慈悲深きこころは、ありとあらゆる処へ、今この瞬間に、或ることができるから。
だから、終わりもなくあの歌を歌おう。常夏の雪光るシーズンを、祝う日の足音が聞こえる。きらきら瞬く笑顔たちが、幾重にもなってこの惑星を、真新しい時の流れの中へと迎え入れていた。

山崎美弥子|Miyako Yamazaki
アーティスト。東京都生まれ。多摩美術大学絵画科卒業後、東京を拠点に国内外で作品を発表。2004年から太平洋で船上生活を始め、現在は人口わずか7000人のハワイの離島で1000年後の未来の風景をカンバスに描き続けている。著書に『モロカイ島の日々』(リトルモア)、『ゴールドはパープルを愛してる』(赤々舎)などがある。
Instagram:@miyakoyamazaki















