Planet Journal 惑星日記 山崎美弥子|vol.19 生まれ変わる
「1000年後の未来の風景」を描き続けるアーティスト山崎美弥子がハワイの小さな離島から送るフォトエッセイ。

わたしたちの生活がある天国 131 番地の丘は、十二カ月を通じていつも、砂色に乾いてる。そんなこの地に、唯一終わりも知らずに命を繋げているのは、けなげなキアヴェの木たち。雨量が極端に少ないこの地で、何故キアヴェの木たちは、その枝にライトグリーンの若葉を生み出し続けることができるのだろう。その所以は、とてつもない根を張ることができるから。地面が赤くカラカラになっても、深い土の中は潤っている。黄色いカンカン照りにも怯まず、その根はぶれずに、惑星の中心めがけて深く深く、なんと五十メートルにもなるという。日常の視点では、捉えられない地下世界に、それほど巨大な構造を持つなんて、それは神秘の生命体。キアヴェには、靴底も貫通するほどの鋭い棘のある個体と、それから、子どもたちが誤って掴んでも、その小さな手を傷つけない、刺なしの個体とがある。この個体差をオスとメスであると言う人もいるらしい。でも実際には、そうではなく、鹿などの野生動物に食べられてしまわないよう、まだ、木が幼いうちは鋭い棘で威嚇し、その身を守っているとされ、たくましく成長し、食べ尽くされてしまう恐れが無くなり、すっかり安心すると、おのずとその枝から棘が消滅していくという。…なんだか、その性質は、わたしたち人類のこころと似ているのかもしれない。
「あのね、ハグすることはいいことなの。“おきしとーし”というのがあって、それはいいものなの。ハグをするとそれが出るんだって。ひとは、たくさんハグが必要なの。だからね、立ってみて。ハグをひとつあげるから。」
いたずらっ子みたいに細めた目をして、そう言った、たまらかい。リビングルームの西日が当たる場所にある低い椅子、そこに深く腰掛けて、この世界の影と不条理とに、わたしが泣いていたから。なかなか素直に動こうとしないわたしの腕を引っ張って、そして、ブランケットみたいになってわたしを包み込んでくれた。…あれほど、か弱くちっちゃかったベイビーは、いつのまにかわたしの背よりも高くなり、こんなにもゆたかなハグを生み出せるほどに。どこまでもあたたかかいそのハグに、わたしの両目から寂しく冷たく落ちていたものが、ぽかぽかやさしい温度に変わった。

きっと、棘だらけのハートを持つ者は、自分を誰かに抱きしめさせることさえ、許せない時もあるのかもしれない。何故かって、自分を抱きしめてくれるかけがえのない誰かを、その鋭い棘で、不本意に傷つけてしまうことが怖いから。そんなことがあれば、決して誰も寄せつけないよう、きっと、棘は一層鋭くなるだろう。でも、こころが育つにつれ、やがて、棘は消えゆく。なめらかにすべやかに、やさしくなったその枝は、もう鹿たちを遠ざけない。そのこころも、抱きしめられたら、もう恐れずに、抱きしめ返すことができるだろう。より多くの棘を持っていた者は、抱きしめられた感覚のやわらかさを、より深く感じとる。キアヴェの根のように深く深く。

まあたらしい十二が月が始まった。すべては生まれ変わる。深緑色の大木の枝で小鳥たちが朱色の翼を休める。遠くには、永遠の中のとある日の海と空とが、劇場映画のように映し出され、クリーム色に光り輝いていた。
山崎美弥子|Miyako Yamazaki
アーティスト。東京都生まれ。多摩美術大学絵画科卒業後、東京を拠点に国内外で作品を発表。2004年から太平洋で船上生活を始め、現在は人口わずか7000人のハワイの離島で1000年後の未来の風景をカンバスに描き続けている。著書に『モロカイ島の日々』(リトルモア)、『ゴールドはパープルを愛してる』(赤々舎)などがある。
Instagram:@miyakoyamazaki















