アーティスト市川孝典の線香画を精巧に複製するコロタイププリントとは
アーティスト市川孝典の表現技法の一つに「Scorch Paintings(線香画)」がある。60種類以上の線香を温度や太さなどで使い分け、下書きは一切せずに少しずつ焦げ跡を付けて頭の中のイメージを描写していく。
自身が幼少時に見た風景や時計の盤面、がらくた、昆虫標本、ドライフラワー…自身の経験と記憶を紙に焼き付ける。作品を通じて市川の経験と記憶が他者の記憶へとすり替わることで、何げない日常の記憶が消えてしまう恐怖が和らぎ、安心へと変わっていくのだ。
「記憶」という儚く朧げなテーマと合致し強靭さと繊細さを併せ持つ唯一無二の作品世界 が構築される。
Numero CLOSETでは、flower シリーズより、コロタイププリントにした版画作品3点組をオリジナル制作のタトウに納めたエディション20部のうち10部を販売。
市川とコロタイプの熟練の職人との綿密なやりとりによってつくられた版画作品は、オリジナル作品の持つ儚く朧げな市川自身の記憶の残像が、生命に満ちた生々しさを纏った版画作品に変貌し、複製にとどまらない新たな作品となっている。
市川孝典のコメント
「版画制作への興味のきっかけになったのは、アパレルブランドとの協業でした。それ以前の私はアパレルブランドとの協業は避けてきたことでもありました。自分の作品が服などにプリントされて大量に消費されていくことをとても毛嫌いしていました。けれど、ブランドとの協業によって一つ私の中で変化がありました。パリでのランウェイショーをみたり、他人が着てるのをみたり、世界中のバイヤーが買い付けている様子や世界中の様々なお店に並んでいるのをみたときに面白く感じたんです。
いつもはオリジナル作品が私の手を離れるけれど、オリジナル作品が大量に複製プリントされて、コピーされてファッションと共に拡散していく様子がとても新鮮で楽しかったんです。着ている人は私の作品を知らない人が大半で、それがすごく面白く感じたんです。そのことで複製への興味が湧いてきて版画制作が始まりました。
そこで、あらゆる版画を試した中で、京都便利堂によるコロタイププリントに出会い制作を開始しました」
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