Planet Journal 惑星日記 山崎美弥子|vol.26 長めの所望
「1000年後の未来の風景」を描き続けるアーティスト山崎美弥子がハワイの小さな離島から送るフォトエッセイ。

天国 131 番地の家のベッドルームには、東側に小さな縦長窓がある。波の向こう側へと、夜色のガウンのような星空が、逃げ出すように遠のくと、小鳥たちのさえずりと朝焼けの鮭色が、真新しい一日の始まりを告げる。縦長窓は、ミスチヴァスな(いたずら好きな)サンライズが、寝ぼけたわたしの髪のボサボサ具合を、こっそりと覗き見できる角度にある。覗き見られたことにも気づかずに、ようやく眠りから目覚めるわたしは、その瞬間、その窓から差し込む光量を、ぼんやりと確かめる。そうすることで、おおよそ今が何時なのかを予測できる。深呼吸したくなるほど平穏で、島が目覚めゆくときの、きよらかな気配が漂っている。

縦長窓の軒下には、サングラスにボーダーパンツの足長蜂が幾つもの巣をこしらえている。映画の悪役みたいな、ちょっとクールなルックスに反して、彼らの性格は意外にも控えめでやさしい。仕事の邪魔にさえならなければ、たとえ近寄ってみても、攻撃される心配はない。蜜蜂が刺す毒には、人の免疫を高める有益な成分が含まれていて、古くから、養蜂家たちは長生きだと聞いたことがある。だから、蜜蜂と同じように、足長蜂の毒だって、きっと何か良きものに違いないと、わたしは疑わなかったが、どうやら、そうではないらしい。そんな足長蜂たちも縦長窓の軒下で、小さな背中を羽ばたかせ、高鮮度の朝をゆっくりとでも確実に始めている。

足長蜂のキックオフに感化され、わたしもブランケットを蹴飛ばして、縦長窓から流れ込む朝のエネルギーにおはようを告げると、裸足のままエントランスの扉をひらく。「今朝」という世界へと踏み出してみる。ライムグリーンの草上を歩いて、そのまま、わたしは絵を描くための部屋へと、何かに促されるかのように入っていく。一呼吸置いたら、水分をたくさん含ませたミントブルーをカンバスにのせる。そう、使い慣れた絵筆の、横長のストロークで。そのまま筆は、不可視を見えるものへと翻訳し続ける。長い長い朝の歌を歌おう。その時、ストロークが重なるカンバスに投げられたものは、この惑星の裏側まで、終わりもなく続いていく。正真正銘横長の、偏見もなく、片寄りもない、水平線のウインクだった。

Photos&Text:YAMAZAKI MIYAKO
PROFILE
山崎美弥子|Miyako Yamazaki
アーティスト。東京都生まれ。多摩美術大学絵画科卒業後、東京を拠点に国内外で作品を発表。2004年から太平洋で船上生活を始め、現在は人口わずか7000人のハワイの離島で1000年後の未来の風景をカンバスに描き続けている。著書に『モロカイ島の日々』(リトルモア)、『ゴールドはパープルを愛してる』(赤々舎)などがある。
Instagram:@miyakoyamazaki



























